組織力とマネジメント力を高める「PDCA」と「前さばき力」
経営管理という仕事を端的に表現するなら、「正常を定義し異常を正常に戻す仕事」
これを遂行するための効果的な仕組みが「PDCA」です。
「ビジョン」と「一人ひとりの仕事」を結び付ける仕組みです。
経営者や管理者の仕事は、適切なPDCAを円滑に回していくことといえます。
組織や仕事を管理する者として、高めておきたいのが「前さばき」の能力。
共に働く人たちに働きやすさや動きやすさを提供していく必要があります。
進化、発展で変化の著しい時代に、私たちは未来の可能性を追う視点に偏りがちです。
まず、今をきちんと積み上げ、未来の礎にできるようなマネジメントが必要です。
「正常を定義し異常を正常に戻す」ことで実現していきましょう。
<目次>
経営管理とは、正常を定義し異常を正常に戻す仕事
管理者は「PDCA」を回し、組織を目標に近づける
・管理者の仕事とは
・進捗と異常のチェック
・管理者は、経営視点を持つ
管理者が高めたいマネジメント力「前さばき力」
・管理者が行う「前さばき」仕事
・「前さばき力」を高めるための3つの能力
経営改革は、「今」の良好マネジメントが礎になる
・未来のために今を積み上げる
経営管理とは、正常を定義し異常を正常に戻す仕事
経営管理とは、正常を定義し、異常を正常に戻す仕事です。
この定義を、まずはしっかり頭に入れておいてください。
ビジョンに基づいて戦略・方針・計画を立てる
戦略・方針・計画をきちんと実行する
最終的にどのような結果になったかを把握する
結果を分析し修正・改善点を見極める
これらを円滑に進めるための仕組みのひとつが「PDCAサイクル」です。
「Plan」「Do」「Check」「Action」の頭文字をつなげたものです。
Plan(計画) :従来の実績や予測などを基にして業務計画を作成する
Do(実施・実行) :計画に沿って業務を行う
Check(点検・評価) :業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する
Action(処置・改善) :実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする
ご存知の方も多いと思いますが、改めておさらいしておきましょう。
まず、基本理念に基づいて5年後や10年後の「あるべき姿」である「ビジョン」を描きます。
「ビジョン」に基づいて中期経営計画や年度計画、部門目標、個人目標などを決めます。
一人ひとりが自分の目標を達成し、部門が目標を達成し、年度で全体が目標を達成することを繰り返していきます。
この「繰り返し」が「PDCAサイクル」です。
同時に、「ビジョン」と「一人ひとりの仕事」を結び付ける仕組みでもあるのです。
「PDCAサイクル」を回すことで、企業は一歩ずつビジョンに描いた「あるべき姿」に近づいていくことができるのです。
大切なことは、「PDCAサイクル」を回して「P」を実現すると同時に、状況に合わせて「P」を修正していくことです。
最後の「Action」は、「次のPDCAサイクル」につながっていきます。
「PDCAサイクル」がきちんと回されていれば、「次のP」は「前のP」よりも「スパイラルアップ」したものになるはずです。
スパイラルアップしながら「PDCAサイクル」を回すヒントをご紹介していきます。
管理者は「PDCA」を回し、組織を目標に近づける
企業を動かすのは一人ひとりの従業員です。
たくさんの人がひとつの方向に向かって動くためには、
計画を立てて実行し、結果を検証して次の計画を立てなくてはなりません。
経営理念やビジョンなどに基づいて経営者が経営計画を立てます。
その計画が、各部門の計画に展開されます。
従業員は部門計画を達成するために割り当てられた個人目標の達成を目指します。
管理者の仕事とは
経営者の計画を実現するためには、
一人ひとりの仕事が目標や計画通りに進んでいるかの管理が必要となります。
部門のトップに立つ管理者が、部門の目標に合わせて部下たちの個人目標を設定し、部門全体の目標を達成できるように管理していくのです。
この管理者の存在なくして、「PDCA」を回すことはできません。
言い換えれば、管理者とは「PDCA」を回す人なのです。
そして、このPDCAを回す仕事を、別の言葉に置き換えると、「正常を定義し、異常を正常に戻す」仕事なのです。
実際にやってみると、目標や計画通りに進むことは滅多にありません。
むしろ、異常事態が起こることが当たり前といっても過言ではないでしょう。
環境の変化に合わせて計画を軌道修正したり、新商品の開発を急いだり、新規顧客を開拓したり、とさまざまな手を打っていく必要がでてくるはずです。
これらの異常事態に対してできる限りの手を打って正常に戻す
つまり、目標達成に近づけていくのが管理者の仕事なのです。
進捗と異常のチェック
計画通りに進んでいるか、異常がないかについてはどのようにチェックするべきでしょうか。
それぞれの部門には、ミッション・目標・計画があり、それを遂行する上で必要な経営資源としての「人」「もの」「金」「情報」などが与えられます。
それを部内の室や課や係、そして従業員個人へと展開し、それぞれの計画に落とし込むことで実現可能性を高めていくわけです。
ですから、管理者は経営計画・目標に基づいて部下一人ひとりに目標を設定し、期間を決めてその達成を目指さなければなりません。そのためには課や係といったより小さな単位ごとに計画通りに進んでいるのかを随時チェックし、計画通りに進まない原因を突き止め、改善しなくてはなりません。
同時に、経営計画そのものにムリがないか、自分が担当している部門で実現可能なのか、経営資源は足りているのか、といった計画の枠組みについてもチェックし、必要ならば関係部門へ働きかけをすることもあるのです。
そのため、管理者には幅広い知識と教養、人間に対する理解、経営者意識などが求められます。
管理者は、経営視点を持つ
管理者と一言でいっても、さまざまな種類の人がいるでしょう。
現場から叩き上げで管理者になった人は、経営について積極的に学ぶ必要があります。
自然科学、哲学、宗教などに関する知識も必要になるでしょう。
先行き不透明な時代に解を出せる、自分なりの「軸」を持つことが大切です。
一方、現場を知らずに管理者になった人は、現場の人たちと会話を重ね、その現状をよく知ることが重要です。経営計画に基づいて部門計画通りに遂行する管理者の仕事と、経営計画をつくる経営者の仕事は大きく異なります。
優れた管理者になるということは、経営者的な視点を持つということでもあります。
管理者の皆さんは、ただ「PDCAを回す」というだけでなく、経営計画を立てる、あるいは企業の将来像を描くことを常に意識し、経営者になる準備をしましょう。
管理者が高めたいマネジメント力「前さばき力」
管理者にとって最も重要な仕事は「PDCAを回す」ことです。
管理者として経営計画に基づいた部門全体の目標を設定します。
部下に目標を与え、それを達成するための施策の進捗をチェックします。
問題があればサポートしたり、改善を指導したりします。
自らが目標達成に向けて動くというよりは、部下たちに動いてもらうことが多くなります。
目標に向けて部下たちを引っ張る力も必要ですし、目配りや気配りも欠かせません。
管理者が行う「前さばき」仕事
そんな管理者の仕事を具体的に見ていくと、まずは管理者として課せられた部門全体の目標をどのように達成するかのシナリオを立てなければなりません。
その上で、目標を達成するために、「人・もの・金・情報」などの経営資源を最も有効に活用する組み合わせを考えます。
しかし、たとえどれだけ慎重にシナリオを描いたとしても、仕事にはトラブルがつきものです。
シナリオ通りに進むことは滅多にありません。
それらを予知して処置(予防を含む)する能力も不可欠と言えるでしょう。
大雑把に言えば、これが、管理者が「PDCAを回す」ために最低限やらなくてはならない仕事です。
これらの仕事をひとことで言うと、部下が働きやすいようにするための「前さばき」です。
部下が伸び伸びと責任感を持って仕事ができるような環境を整え、セットしてあげられる能力がなければ、管理者には向いていません。
「前さばき力」を高めるための3つの能力
管理者として必要な「前さばき」の能力を高めるために、何を心がけるべきかを考えていきます。
「さばいてやる能力」は、「仕事に対する思想」「目標達成への情熱」「戦略形成能力・企画能力・調整能力」の3つの能力で高まっていくものです。この3つの能力が備われば、目標に向かって人を動かし、シナリオに沿って目標を追求し、トラブルにも対処できるようになるはずです。
「仕事に対する思想」の能力
「一人ひとりの成長が会社の成長につながり、会社の成長が社会の発展に確かに貢献していると実感できる会社」にすることです。
「目標達成への情熱」の能力
「PDCA」をしっかり回しながら「インタンジブルアセット(金額に換算できない無形資産)」を積み上げる努力を大切にすることです。
「戦略形成能力・企画能力・調整能力」の能力
この能力を培うには、セミナーなどの勉強に加え、チャレンジの「場」が不可欠となるでしょう。
これら「仕事に対する思想」「目的達成への情熱」「戦略形成能力」の3つをしっかりと意識し、身に付け、部下のために「さばいてやる能力」を発揮していきましょう。
経営改革は、「今」の良好マネジメントが礎になる
企業とは、泳ぐのを止めたら死んでしまうマグロのようなもので、常に前へ、先へ、未来へと進んでいこうとするものです。
従って、未来における自分たちのあり方について真剣に考え、努力している企業ほど、未だ見ぬ未来の仕事に対して「人」「もの」「金」「情報」といった経営資源を集中させがちです。
なぜなら、今のお客様のための製品やサービスは日常業務、つまりオペレーションとしてすでに提供されているものであり、それほど大きな改善の余地はないと考えるからです。
一方、未だない製品やサービス、未だ一緒に仕事をしていないお客様との仕事は、今までにない結果への期待を初めとしてあらゆる可能性に満ちているからです。
確かに、企業というのはゴーイングコンサーン(*2)を前提とした存在ですから、未来の可能性を信じて投資することはとても大切なことです。
その一方で、現在のお客様に満足していただくことも重要です。
今動いていることなのだから何もしなくて良いというわけではないはずです。
今を大切に積み上げることでしか、企業の未来はないのです。
*2:ゴーイングコンサーンとは
企業の永続を前提とする考え方のこと。人の命には限りがあるが、企業は継承により永続が可能。
経営の計画、遂行は継続することを前提にして進められる。存続の可能性を測る会計上の用語でもある。
未来のために今を積み上げる
たとえば、経営改革の一環として巨額の投資を行い、新たなシステム開発に取り組んでいる企業があるとします。そのシステムが完成した暁には、未来のお客様に大きな満足を感じてもらえる可能性があるでしょう。
しかしその一方で、現在稼動しているシステムを利用しているお客様がいます。
いつ、何が起こるか分からない不測の事態にも備えなくてはなりません。
サイバー攻撃へのセキュリティ対策、地震が起こった時の対策など今やるべきことを挙げればキリがありません。それら日常のオペレーションこそ、疎かにしてはならないのです。
改革というと、つい未来のことばかり考えて「前のめり」になりがちです。
そういう時こそ、一度立ち止まって「足元を固める」ことを意識しましょう。
屋台骨がしっかりしていないと、どれだけ魅力的で革新的な改革をしても「砂上の楼閣」になってしまいかねません。
お客様の満足には2種類あります。
すでに顕在化している要求である「needs」に応えること。
お客様自身がまだ感じていない潜在的な要求である「wants」に応えること。
今までにないサービス、製品などで新しい経験を提供できれば、それは「wants」であり、お客様は感動するでしょう。しかし、現在のサービスや製品などをきちんと提供してお客様の「needs」を満たすことも重要ですし、そこに「wants」が潜んでいないわけではありません。
未来のことばかり考えて、現在をおろそかにしないように心がけたいものです。
そのポイントとなるのは「基盤を確立する」ことです。人材基盤、システム基盤、仕入先基盤、財務基盤などの「基盤」を確立しながら前に進む経営姿勢が求められます。