OKRを理解し活用するためのMBO・KPI・方針管理との違いと組み合わせ方
GoogleやIntelといった名だたる企業が導入し、爆発的に広まったOKRという目標管理のフレームワークの背景と特徴を理解するには、日本版OKRと言える方針管理と対比するとわかりやすいです。また、従来から導入されているMBOやKPIとの違いを理解し、組み合わせることでOKRは、より効果の大きいものとなります。MBOやKPIとの違いと組み合わせのコツを紹介します。
<目次>
OKRとは~背景と特徴
OKRと方針管理の共通点と違いからOKRを理解する
OKRとMBO・KPIの違いと組み合わせのコツ
・MBOの特徴とOKRとの組み合わせのコツ
・KPIの特徴とOKRとの組み合わせのコツ
補足:日本版OKRと言える方針管理とは
OKRとは~背景と特徴
OKRは、1970年代にIntelから発祥し、2000年頃にはGoogleで採用され同社の目覚ましい成長の原動力になりました。
このGoogleの成長は世界中で話題になり、海外のIT企業など急成長ベンチャー企業を中心に取り入れられ、日本でも採用する企業が拡大しています。
OKRの背景
背景には、競争が激化する市場の中で、企業がより成長するためには、社員が個々に目の前の仕事に取り組むだけでなく、企業が大きな目標を掲げ、その目標をチーム単位、個人単位に落とし込み、全体で一つの目標に向かって行くことが必要とする考え方があります。
そして「会社の目標を、部署単位・個人単位の目標にリンクさせることで、より高い目標の達成に向けて活発なコミュニケーションが行われる組織を作り出す」という考え方が根底にあります。
OKRとは、「Objectives and Key Results」の略語です。
直訳すれば、「目標と、そのカギとなる成果指標の集まり」ということですが、これは、ツリー構造で会社全体の目的・目標→部門毎の目的・目標→個人毎の目的・目標 を繋げる手法です。
ですからOKRではまず目標(Objectives)を決め、その達成のために必要な要素を3〜4の成果指標(Key Results)に分解し、進捗をトラッキングします。
例えば会社として、「売上XXXX円を達成する」・「年内にXXX店舗の展開を目指す」といったものを目標としてセットします。そして、その目標に対してインパクトを持つ成果指標を、KRに置きます。
次に、会社のOKRに対して、各チームと個人のOKRを同様に決定します。
最終的にはツリー構造になり、会社のOKRから個人のOKRまでが紐づくようになります。
OKRの特徴
この、「会社の目標と個人の目標がリンクする」ということが、OKRの最大の特徴です。
全社員の目標を一つひとつ上位階層にたどっていくと、最終的には「会社としての目標」につながるようになっています。
目標を立てる時およびその環境としては、以下の点を網羅している必要があります。
①限界を超えることがそもそもの目的である。そのため、不可能ではないが達成するには困難な高いレベルに設定する
②達成率が60%~70%程度となるくらいが理想的(達成率が高い=難易度の低い目標)
③定量的で測定可能である
④全ての目標(社長・部門/チーム単位・個人レベル)が社内で公開されている=誰もが知ることができる
⑤四半期ごとに目標を設定・評価する
また、OKRにおける達成度合いがそのまま報酬(賞与金額・昇給%)につながるわけではありません。
目標の評価は、達成度合いを何らかの形で数値化(5段階評価や達成率〈%〉など)すると同時に、評価者はその根拠が説明できることが求められます。
OKRの最大のメリットは、全社で実施すると、自分の目標が会社の目標にどうつながっているかが良く分かることです。
OKRと方針管理の共通点と違いからOKRを理解する
GoogleやIntelが取り入れたOKRですが、日本にもOKRと概念がほぼ同じものとして方針管理というものがあります。
トヨタなど日本企業の中で長年、培ってきたものです。
OKR的概念を理解し、実践してきた会社が日本にも存在し、結果を出してきたのです。
OKRと方針管理は概念や基本的考え方は同じですが、幾つかの点において相違もあります。
OKRでは以下の点が特徴として挙げられます。
①限界を超えることがそもそもの目的である。そのため、不可能ではないが達成するには困難な高いレベルに設定する
②達成率が60%~70%程度となるくらいが理想的(達成率が高い=難易度の低い目標)
③定量的で測定可能である
④全ての目標(社長・部門/チーム単位・個人レベル)が社内で公開されている=誰もが知ることができる
⑤四半期ごとに目標を設定・評価する 。
方針管理 では以下の点が特徴として挙げられます。
①ビジョン(10年後の会社のあるべき姿)を実現することが目的である。
②達成率は100%を目指す。(目標の過剰達成も問題である)
③定量的(目標)と定性的(方針)の両面で評価する。
④全ての目標を社内で公開するとは限らない。
⑤3か年ごとの中期計画と1年毎の年度計画で、目標・方針を設定し評価する。
要するに方針管理は、品質管理の概念を会社レベルに拡大した考え方です。
従って、歴史的に導入の経緯を観ると、比較的大きな企業、それも製造業が中心で、一年毎に目標・方針を定め、製品という形のある商品を生み出すことを中心にした事業において展開されて来ました。
その為、部門ごとの役割分担(ミッション)を明確して展開しようとする概念、100%が良いこととする概念が内在していると思います。
一方のOKRはIT系の企業で導入されてきた歴史的経緯から、比較的小・中規模の企業で急成長する過程で方針管理を変化させ、その会社に適合させてきたことが伺えます。
その特徴は、
①限界を超えることがそもそもの目的である。
②達成率が60%~70%程度となるくらいが理想的(達成率が高い=難易度の低い目標)
⑤四半期ごとに目標を設定・評価する 。(短い管理サイクル)等に現れています。
いずれにしても、其々の「本質」部分を理解し、其々の会社に合った手法を導入すべきと考えます。
OKRとMBO・KPIの違いと組み合わせのコツ
MBOの特徴とOKRとの組み合わせのコツ
まずMBOについて説明します。
MBOはManagement By Objectives(目標管理制度)の略です。
個別またはグループ毎に目標を設定し、それに対する達成度合いで評価を決める制度です。
1954年に、P・F・ドラッカーが自身の著書の中で提唱した組織マネジメントの概念です。
MBOは、OKRと「目標管理・人事評価制度」を繋げる手段と理解できます。
つまり、言うなれば「会社のあるべき姿に向かって、一人ひとりのやる気を引き出す神経細胞」の様なものです。
MBO(目標管理制度)で一人ひとりに対して行われる「処遇」が具体的な人的インパクト(刺激)ですから、その刺激を会社の目的・目標と如何にリンクさせるかがコツです。
コツは、数字的にリンクさせるだけでなく、「会社にとって何をすることが正しいか」を処遇で示すことです。
例えば、変革に挑戦し目標未達成になった人をどう処遇するかです。
変革することが会社にとって正しいことなら、数字だけでの評価は正しいメッセージになりません。
ノルマ管理のツールの様にとらえられてしまうのは、目標達成にばかり焦点をあててしまっているのが原因と考えられます。
また、目標から外れる業務はやらなくなるといったことも問題です。
それらの誤解は運用で十分回避できると思います。
例えば、状況によって目標設定の再調整を行う、或いは業務に対する姿勢(コンピテンシー)を評価として加点するといったことです。
KPIの特徴とOKRとの組み合わせのコツ
KPIはKey Performance Indicator(重要経営指標)の略です。
KPIは組織の目標達成度合いを定義する補助となる計量基準群で、現在の経営の状況を示す為に用いられます。
これを使って、これから会社が取るべき対応策を立案する等に活用されます。
元々経営管理手法の一つであるBSC(Balanced Scorecard)における役割・戦略目標を評価する為の具体的ものさしを指します。
BSCでは”KIP“として財務的な指標だけでなく、人材→業務→顧客→財務の方向に因果関係でつなぎ、4つの視点で結果(目的)が財務の視点に現れるのが特徴です。
この点を理解していると、KPIを設定する上でのコツが解ります。
KPIは、重要経営指標ですから、OKRというツール及びそれに基づく諸活動、或いはMBOというツール及びそれに基づく諸活動が上手く機能しているかどうかを客観的かつ総合的にモニターする指標です。
言うなれば「会社のあるべき姿に向かって、会社全体が有機的にリンクする為の背骨の様な存在」であり、OKRとMBOを如何に整合させるかが重要です。
そしてKPIに結果として異常があれば、その原因を迅速に突き止め、是正する行動を取る事が求められます。
OKRそしてMBOにおける「目標設定」は、KPIとしっかり連動させるものであり、ツリー構造でKPIを如何に因果関係で分解し、其々を担当する部門・個人に「切れ目なく展開するか」がコツです。
これを会社全体のツール・システムとして導入するのは経営管理部門の役割ですが、MBOを管轄する人事部門や各事業部門との綿密なコミュニケーションや理解活動がコツと言えるでしょう。
補足:日本版OKRと言える方針管理とは
方針管理とは、経営方針(目的・目標)を達成する為に行う業務の管理の仕組み・取り組みを言います。“日常管理”が現場における日常的な業務を対象とするのに対し、方針管理は次のような規模・対象で行われます。
①目的:全社の方針や目標を達成する為に行う。
②対象:企業トップから発せられた方針を、事業部門や個々の業務まで順々に落とし込んでいく。
③期間:中・長期計画、少なくとも年度計画に基づく。
ただし、全社の経営計画がそのまま現場に落ちてきては対応しようがありませんから、方針管理は以下の段階を経て展開されます。
①【P】中長期の計画に基づいた全社の方針(大きな目標)を、事業部門、部、課などに対し、その部門の機能に応じてより細かく展開していく。なお、展開する時には重点課題や具体的な目標、方策、管理項目、実施計画などをセットで展開していく。
②【D】各部門では、実施計画に基づき、重点課題に対する方策を実施する。その実施内容は、管理項目で達成の度合いを図っていく。
③実施計画の中でPDCAを何度も回し、実施状況をチェックしたり、目標に届かないなどの異常が出たときの処置・対策を行ったりする。
④年度末に年間の取り組みの評価と振り返りを行い、反省点から次期へのフィードバックを行う。
⑤【C】なお、各部門の取り組みは全社の方針を分割・展開したものなので、逆に各部門の取り組みの成果を集約すると、全社の目標達成につながることになる。
⑥【A】展開された取り組みの成果を集約するとともに、全社的な取り組みの評価を行い、次年度以降の計画へのフィードバックを行う。
このように、方針管理とは、
①全社レベルの目標を部門に展開する
②全社の大きなPDCA(又はOODAループ)と部門ごとの小さなPDCAを両輪として管理のサイクルを回していく
などの取り組みにより、「全社レベルと部門レベルの連携とかじ取りを有効に行う」管理のしくみとなっています。
大きな目標をブレークダウンして展開するため、現場と上司が目線を合わせた相談ができ、マネージャーにとっても、年間の振り返りが具体的にでき、自身のレビューやそこからの有効なフィードバックを得ることができます。
方針管理において最も重要なことは、
①会社全体に切れ目なく目標・方針を展開すること=各階層毎に会社全体とリンクした正常を定義すること
②それぞれのレベルでPDCAを確実に回し、計画・目標を達成すること
です。
そして、人事考課は方針管理とリンクしたものを目指します。
各階層毎の目標に対し、どれだけ達成できたか、未達成の要因は何かを出来るだけ定量的に評価し、それに基づいて、昇格・昇進・昇給等を決定します。