OODAループとPDCAサイクルを比較しながら使い分けと組み合わせをする
管理レベルを高めるために推奨されているものにOODAループがあります。OODAループは、必ずしもPDCAの代わりになるわけではありません。それぞれメリット・デメリットがあります。
PDCAとOODAループの違いとその特徴を比較し、その使い分け方と組み合わせで管理レベルを高める方法を紹介します。
<目次>
PDCAサイクル・OODAループを回すための基礎知識
OODAループとは
PDCAサイクルとは
OODAループとPDCAサイクルを組み合わせて管理レベルを高める
PDCAサイクル・OODAループを回すための基礎知識
まず「管理サイクルの回し方」を考える前提として、前述の「目標設定」と同様に、「問題点」と「課題」の違いの理解が必要です。
「問題点」は、現状の姿に着目して、「何が問題か、改善すべきところはないか」を考えた結果として出てきます。
一方、「課題」とは、将来のあるべき姿に着目して、「あるべき姿と現状の姿にどんなギャップがあるか」を考えた結果出てくるものです。
もう一つ明確にしなければならないのは「管理」の定義です。
この「管理」という言葉を定義せずに「管理者」をやっている人が沢山います。
私は、「管理=正常を定義して、異常を正常に戻す仕事」と定義しています。
従って、「管理サイクルの回し方」とは、「正常を定義して、異常を正常に戻す仕事を行う上で、必要な業務サイクルの回し方」を考えるということになります。
仕事ができる人材になる為には、2種類の管理サイクルの回し方をマスターしなければなりません。
まず、課題形成・対応は、「戦略立案・実行」と近い仕事ですから、「OODAループ」を応用することになります。
この「OODAループ」は、元々はアメリカ全軍やNATO(北大西洋条約機構)の軍事戦略を策定する際に用いられ、その後ビジネスの世界にも応用されるようになりました。
一方「PDCAサイクル」は、W・E・デミング氏が提唱し、元々生産技術における品質管理等の継続的改善手法として用いられたものです。
現状をQC的にデータ分析し、なぜなぜを繰り返し、真因を把握して改善します。
それを継続的に行なうことによって品質がより良くなると考える訳です。
この2つの違いを端的に言えば、
「相手の動きを含めた状況分析」を行い、「自らや同盟(協業先)を含めた戦略・作戦を決め、実行する」のが「OODAループ」で、
「自分の現在の状況分析」を行い、「自らの現在の状況をより良くする為の計画を決め、実行する」のが「PDCAサイクル」ということになります。
因みに「戦略」の定義ですが、私は、「戦略には3つの要素が入ってなければならない」と考えています。
それは
① 明確な目標(何時までに、どういう状態になっていなければならないか)
② ①を実現する為のシナリオ(このシナリオを選び他のシナリオを選ばない明確な理由も明示する)
③ ②を成立させる為、他者や全体をどう巻き込むかの施策(競争相手に勝つためには、スピードや生産性が重要な命題でありますから、協業他社を巻き込むことが必要になり、ビジネスモデル化する為には、社会全体のあり方をどう変えるか等の構想も重要になる。)
の3要素です。
OODAループとは
OODAループは、観察(Observe)→情勢への適応(Orient)→意識決定(Decide)→行動(Act)→ループ(Feedforward/Feedback)によって、健全な意思決定を実現するというものです。
OODAループの意味
O:観察(Observe)
意思決定者自身が直面する、自分以外の外部状況に関する「生のデータ」の収集を意味します。
O:情勢への適応(Orient)
「観察」段階で収集した「生のデータ」を基に情勢を認識し、「価値判断を含んだインフォメーション」として生成します。
D:意識決定(Decide)
「情勢への適応」段階で判断された情勢を基に、行動として具体化するための方策・手段を選択し、場合によっては方針・計画を策定します。
A:行動(Act)
「意思決定」段階で採択された方針に基づいて、意思決定の意図・命令を踏まえて、実際の行動に移します。
ループ(Feedforward/Feedback)
再び「観察」段階に戻り、行動の結果を判定して、次の「情勢への適応」に続けます。
OODAループを成功させるポイント
最も重要なポイントは「情勢への適応(Orient)→意識決定(Decide)」にあります。
つまり、「将来のあるべき姿を実現する為に、色々なシナリオを策定し、その中から最も成功可能性の高いシナリオを選ぶ」ことです。
軍事戦略の場合は、国民の安全や国家の存亡に関わる意思決定ですから、この上なく重要ですし、会社経営においても会社の盛衰を決める大変重要な意思決定になります。
因みに、「戦略と戦術の違い」を明確にしておきましょう。
軍事用語としては、「戦略=戦いに勝つ為に兵力を総合・効果的に運用する方法で、大局的・長期的な視点で策定する計画手段」です。
一方「戦術=戦いに勝つ為の戦地の兵士の動かし方等、実行上の方策」です。
ビジネスの世界においても、「戦い」を「競合他社との競争」に、「兵力」を「経営資源」に置き換えれば同様の意味として使えます。
より端的に言えば、「戦略=取り返しの付かない意思決定を伴う計画手段」、「戦術=ある程度やり直し・練り直しが効く計画手段」と言えるでしょう。
この「情勢への適応(Orient)→意識決定(Decide)」を間違いなく行う為に「観察(Observe)」が着実に行われ、また「情勢への適応(Orient)→意識決定(Decide)」の結果として「行動(Act)」があり、そしてその結果の判定を基に「ループ(Feedforward/Feedback)」が行われます。
最も重要なポイントの「情勢への適応(Orient)→意識決定(Decide)」を成功させる為には、「未来や競合他社の動きを予見し、経営環境の変化へ柔軟に対応する方策を考え、実行すること」が必要です。
言うは易く行うは難しですが、それをやるのが経営者の仕事です。
「経営環境の変化へ柔軟に対応する」為の「環境分析」は、「複眼システム=現状から近未来の環境変化を分析すると共に、遠未来から近未来にBack to the Futureし、複眼で近未来の環境分析を行うこと」が有効です。
また「その変化に対応する方策を考え、実行すること」においては、一般的にはその会社の「強み」に着目することが有効とされています。
PDCAサイクルとは
PDCAサイクルは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善するというもの
PDACサイクルの意味
P:Plan(計画)
従来の実績や将来の予測などを基にして、業務計画を作成する。
D:Do(実行)
計画に沿って業務を行う。
C:Check(評価)
業務の実施が計画に沿っているかどうかを評価する。
A:Action(改善)
実施が計画に沿っていない部分を調べて改善する。
サイクル
この4段階を順次行って1周したら、最後のActionを次のPDCAサイクルにつなげ、螺旋を描く様に1周ごとに各段階のレベルを向上(スパイラルアップ)させて、継続的に業務を改善する。
PDCAサイクルを成功させるポイント
最も重要なポイントは「Plan(計画)」にあります。
よく問題を解くこと以上に正しい問題を設定することが大切と言われますがその通りだと思います。
間違った問題を設定しない為には、データに基づき、なぜなぜを繰り返し、真因を把握することがとても重要です。
また、「Plan(計画)」の段階で、「Check(評価)」の仕方を想定し、それが出来るような「Plan(計画)」にしておくことも重要です。
次に重要なポイントは「Check(評価)→Action(改善)」にあります。
私は時々「『PPPP』になってはいけない!」と指導しますが、そうなってしまうケースが散見されます。
その要因は、
「Plan(計画)」が正しい問題になっていなかったり、
「Plan(計画)」は正しくても「Do(実行)」がやり切れなかったり、
「Plan(計画)」・「Do(実行)」はやれたけれども「Check(評価)」をやらず、また新しい「Plan(計画)」に飛びついてしまう等
「PPPP」になってしまう原因は様々です。
そうならないためには「PDCA」の一つ一つを「やり切る・積み上げる」意識が重要です。
もう一つ「やり切る」ことによって「積み上げる」ものがあります。
それは、人材(財)をはじめ、仕事の仕方(マニュアル)・システム等の無形財産です。
これを積み上げることによって、一段上の「Plan(計画)」を設定でき、所謂「スパイラルアップ」が可能になります。
OODAループとPDCAサイクルを組み合わせて管理レベルを高める
高度な仕事ができる人は、「OODAループ」と「PDCAサイクル」を組み合わせています。
それはあたかも前述の「戦略」と「戦術」の両方で勝利する軍事行動に似ています。
つまり戦略としての「OODAループ」における「行動(Act)」の中に、戦術としての「PDCAサイクル」が当然含まれることになる訳です。
そして戦略としての「OODAループ」における「ループ(Feedforward/Feedback)」の中に、戦術「PDCAサイクル」の結果を反映することになります。
私の言葉で言えば「戦略の現場化」と「現場の戦略化」を同時に行うということになります。
「戦略の現場化」とは、「戦略を現場の計画に切れ目なく展開する」こと、そして「現場の戦略化」とは、「現場の実態を正確に把握し、その実態を次の戦略に切れ目なく反映する」ことです。
これが出来なかった為にアメリカは、ベトナム戦争に敗北したと、当時のアメリカ合衆国国防長官R・S・マクナマラ氏は自書「マクナマラ回顧録 ベトナムの悲劇と教訓」で回顧しています。