~“7つの原則で人を育てる”~
「どうしたら人は育つのか?」は経営に於ける普遍的な重要テーマです。
トヨタ・デンソーは、「モノづくりは人づくり」を標榜し、実際に「人づくり」に全力で向き合い、成果を上げています。「モノづくり」に限らず、全ての業種においても「人づくり」無くして成果を継続的に得ることは不可能でしょう。
私の30年近いデンソーでの経験を踏まえて、「どうしたら人は育つのか?」について考えていきましょう。
<目次>
「モノづくりは人づくり」の“モノ”は何故カタカナなのか?
「人づくり」が何故重要か?
「人づくり」の「7つの基軸(原則)」とは何か?
「モノづくりは人づくり」の“モノ”は何故カタカナなのか?
平仮名の「ものづくり」は、「物づくり」とイコールです。生産されるものは「製品」です。
一方片仮名の「モノづくり」は、「価値」を含むニュアンスがあります。
それを使うことで、どんなメリットや便利さを提供することができるかを考え、企画・開発し、製造し、お客様にお届けし、アフターサービスもしっかりする活動全般を指して「モノづくり」と言っています。
この「モノづくり」を実践できる様「人づくり」に邁進するとトヨタは宣言しています。
トヨタには「機械に人の知恵を加えよう!」と言う言葉があります。これは、人の可能性が無限大であるということを指す言葉です。
例えば、10の性能がある機械があったとします。その機械は、正常に動けば常に10の成果をあげてくれますが、どんなことがあっても11の成果をあげることはできません。しかし、その機械に「人の知恵」が加われば、10が11、或いは15になり得ます。人の知恵は無限大であるからです。
またトヨタが大切にするのは「挑戦すること」です。
車の性能向上(安全性・走行性・燃費等)も、コストダウンも、リードタイムの短縮も、グローバルな活動も、新しいブランド立ち上げ(レクサス等)も、「人の知恵」によって「不可能を可能に変えていくことに挑戦すること」を大切にして来た結果です。
一人ひとりの考える力、挑戦する力、協働する力を真剣に育てるという思いを込めて「モノづくりは人づくり」と言っています。
人は何によって育てられるのか?
「リーダーはリーダーにしか育てられない!」と言う言葉がありますが、ある意味至言であると思います。
つまり、育てられた人材(リーダー)がまた次の人材(リーダー)を育てる事ができるということです。これは伝承の重要性を表している言葉ですし、自分を高めることの重要性を表す言葉でもあります。
また私自身の経験からは、人と交わること、或いは新しいことに挑戦し失敗や成功のプロセスを四苦八苦しながら体験したことが自分を成長させてくれたと感じています。
つまり「色々な場」が私の可能性を引き出してくれたと思うのです。
勿論、本を読んだり研修に参加することも重要ですが、「色々な場」(リーダーに接する場・OJTの場・海外で仕事をやる場・昇進という重責の場・ローテーションでの新しい仕事の場・異業種交流の場等)を人材育成の場と捉えて、計画的に(誰に何を)与え、そして如何に一人ひとりの可能性を引き出すかを経営として考える必要があるのではないのでしょうか?
「人づくり」に欠かせない「7つの原則」(*自書「マネージャー心得帖」参照)とは?
「モノづくりは人づくり」あるいは「場が人を育てる」という考え方は、メーカーだけに通用するものと思いがちですが、実は、この基本的な考え方を進化させていくと「普遍的な人づくり」として、色々な業種に通用し、かつ成果を出すことができるものと考えていくことができます。
それは、下記のような考え方を付け加えることで、具現化できるのではないでしょうか?
人の可能性を具現化する。
「価値創造の主体は人間にある!」という大原則を、会社として、上司として深いレベルで理解することです。
上司が一番やってはいけないことは、「またか!」とか「どうせ…」という言葉を上司が部下に対して使うことです。
Pull Systemで人と組織の可能性を引き出す。
人を育てる方法にはPush System とPull Systemがあります。
Push Systemは所謂「教育」で、知識をどんどん詰め込むやり方です。一方のPull Systemは「場の提供」です。Push Systemである程度知識を得た上で、Pull Systemで「場の提供」をすると人は育ちます。特に「挑戦の場」を与え、自分の可能性に挑戦させましょう。
上司が一番やってはいけないことは、「部下の飼い殺し」です。自分の都合を優先させ、部下の可能性を消滅してはなりません。
組織にも挑戦の場が必要です。シェアアップ・新しい事業創造・他社との協業・海外展開等に組織として挑戦することによって、組織能力が向上します。
異質から多様性を生み出す。
0+0+0=0です。ここに一人の異質(1と表現)を入れると、0+0+0+1=1になります。しかし、会社においてはこの算数の結果だけではなく、0が1に変化する化学反応が良く現れます。つまり1+0+1+1=3の様な現象です。そして異質にも変化が現れ、1+0+1+2=4の様な現象が起こります。この変化は継続的に連鎖します。
上司が一番やってはいけないことは、「異質の排除」です。自分の小さな器に部下を閉じ込めてはなりません。自分の器を大きくする努力をし、異質を積極的に取り入れましょう。
「サムシンググレート」としての方針管理を実践する。
「人づくり」は会社全体の「方針管理」で行われます。「モノづくりは人づくり」の様に、「モノづくり」という哲学(方針)に基づいて初めて「人づくり」が可能になるのです。
上司が一番やってはいけないことは、「自分勝手な人材育成」です。人材育成は、会社の成果に繋がるものでなければなりません。そして科学的なやり方でなければなりません。
摂理に基づいて権限と責任の一致にこだわる。
「権限だけを与えられ責任を与えられない」或いは「責任だけを与えられ権限が与えられない」様な「場」では人は育ちません。やはり「権限と責任をセットで与えられる場」が人を育てます。
上司が一番やってはならないことは、「部下に対する配慮のない行動」です。それを防ぐことは難しいことではありません。配慮の心さえあれば、「権限と責任」は自ずとセットされます。
やり切る・積み上げる。
例えば、PDCAサイクルは「やり切る習慣」、そしてPDCAサイクルを回しながらインタンジブルアセット(お金に換算できない財産)を「積み上げる習慣」によって人は育ちます。
上司が一番やってはならないことは、「やりっぱなし」です。PDCAサイクルで言えば、PPPPの様な仕事のやり方です。「やり切ったと思える体験」から部下は何かを得て成長します。
経営と現場はRespect&Linkの関係にする
上記のことは経営によって深く理解され、哲学として浸透していなければ成立しません。
経営のコミットが不可欠なのです。
経営は現場を、現場は経営を
- Respectする(役割を認め合う)風土
- 経営と現場が方針管理や自主研活動等でLinkする(繋がる)風土
が人を育てます。
経営が一番やってはいけないことは、「現地・現物・現実」を観ず、「原理・原則」に従わないことです。5ゲン主義が大変重要です。
参照:自書「マネージャー心得帖」(成功と成長7つの原則)より
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