「異質」を最大活用する経営管理が企業成長と継続を実現する
仕事ができる人がいるのに組織としての力が高まらない。組織力を高めるには、一人ひとりの力を高めるだけでなく、異なる能力を相互に連携させ、チームとして機能させる組織管理力が不可欠です。多様な人材を活かす柔軟性や発展性を高め、化学反応を起こし、明確な役割と責任のもと相互に連携させるための取り組み方と成功ポイントを紹介します。
<目次>
組織力を高めるための多様性が鍵
・企業経営とオーケストラの共通点
・経営者は多元的評価をバランスよく最大化する人
・経営におけるインプットとアウトプットのバランス
・従業員満足度がカギ
経営資源を駆使する団体戦とするための組織づくり
・場の雰囲気も経営資源
異質化で組織に化学変化を起こさせる
・多様化のための人材活用
組織を機能させるリーダーの役割と責任のあり方
・会議の3つの役割
・慎重、かつ大胆に決断を下す
組織力を高める議論の質の高め方
・組織の文殊の知恵を導き出す
・皆の思考を同じ土俵に上げる
・議論の効率性を高める
組織力を高めるための多様性が鍵
経営者や社員が代わっても、企業は事業を継続していくことを前提として運営されます。
経営判断もこの考え方を前提として行います。
企業を継続するとは、企業が変わらないということではありません。
進化論を唱えたダーウィンが説いたとも言われている言葉があります。
この世に「生き残る」生き物とは、
最も力の強いものか。そうではない。
最も頭のいいものか。そうでもない。
それは、変化に対応できる生き物だ。
経営を取り巻く環境の変化は著しく、今までの強みが、突然弱みに変わることも少なくありません。
そのような環境下で企業が生き残るには、その変化に対応するための「柔軟性」が必要です。
この柔軟性には、多様性が欠かせない要素となります。
企業の組織力を高めるためにも多様性が欠かせません。
企業における価値創造の主体は人です。
人の可能性を広げることこそが、変化に対応して生き残る術です。
人の可能性を広げるひとつの手段となるのが、積極的に「異質を取り入れる」ことなのです。
多様性を活かす組織形態の一つがティール組織です。
企業経営とオーケストラの共通点
経営は、オーケストラの在り方に似ています。
オーケストラは、演奏者たちがそれぞれ異なる楽器を奏でます。
指揮者の仕事は、楽器の演奏ではなく、演奏者たちにより良い演奏をしてもらい、それぞれの音を調和させて、聴衆に届けることです。
経営に置き換えると、お客様である聴衆から得られる入場料が売上、オーケストラが企業、演奏者たちが従業員、そして指揮者が管理者となります。
指揮者が演奏者たちの音を調和させ、お客様が満足する音楽を届けられなければ、入場料は得られません。利益も上げられないのです。
企業経営も、企業に属する一人ひとり異なる能力を持つ人たちの力を合わせて、製品やサービスを提供し、利益の創出を目指すものなのです。
経営者は多元的評価をバランスよく最大化する人
経営者は、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーから多元的に評価されます。
この点は、オーケストラとは異なります。
「人・もの・金・情報などインプットした経営資源を有効活用して、お客様・従業員・株主などの満足に「社会貢献」も含めたアウトプットを最大化すること」これを経営の定義とするなら、管理者は「アウトプット÷インプットを最大化する人」と定義できます。
この経営者の定義を、投入した資源から最大限の利益を得ることと考えれば、「生産性を最大化する人」と言えるようにも思えるでしょう。しかし、それほど単純なものではありません。
「生産性」は、総資産経常利益率や資本当期利益率など、経営効率を図る財務上の指標で表現されます。それらの指標での分子(アウトプット)は「利益」だけです。
「経営」で見る「アウトプット÷インプットの最大化」でのアウトプットは決して利益だけではありません。お客様満足、従業員満足、株主満足、そして社会貢献まで全てを含んだものとなります。
このうちのどれかを追求すれば、どれかに不満が出るという相反性も起こります。
経営者は、これらの「すべてをバランス良く最大化していく人」でなければならないのです。
経営におけるインプットとアウトプットのバランス
アウトプットを最大化する手段には、「価格を抑えてお客様満足を追求する」「給料を上げて従業員満足を追求する」などもあります。いずれも短期的にみれば利益は減少しますが、長い目で見てそれを補う戦略があればいいのです。
逆に、利益だけを追求して価格の高い製品やサービスだけを提供し続けても、そこにお客様満足がなければ売れません。また、価格破壊でお客様満足だけを追求しても、従業員へのケアやきちんとした利益を得られる仕組みがなければ遅かれ早かれ倒産するでしょう。
経営者の仕事の最も本質的な部分は、「短期的な利益だけに囚われず、長期視点でその時々のインプットとアウトプットを最適化して調和させる」ことなのです。
従業員満足度がカギ
「一人ひとりの成長が会社の成長につながり、会社の成長が社会の発展に確かに貢献している実感がある」という従業員の満足度が大切です。
従業員は経営者にとって重要な経営資源であると同時に、満足度を追求すべきステークホルダーでもあるからです。インプットとアウトプットの両方に関わる従業員の満足度が高いことは、この難しいバランスを取る上でのひとつのカギとなるでしょう。
「人、もの、金、情報」から成るインプット
「お客様満足、従業員満足、株主満足、社会貢献」から成るアウトプット
それぞれの構成要素のどれかひとつを突出させることなく、全体を見て最適なバランスを考えましょう。そのためにも、変えてはいけないことと変えるべきことをきちんと見極め、変えるべきところはいつでも変えられるように準備することが大切です。
未来の環境変化は誰にも予測できませんが、自分の知らないことを恐れてはいけません。変化を受け入れる柔軟な心を持ち続けましょう。
経営資源を駆使する団体戦とするための組織づくり
仕事は一人でするものではなく、常に団体戦です。
越えられそうにない壁や答えの出ない難問が立ちはだかっても、決して一人ではありません。
経営資源である全員の力を集め、さらに「人」「もの」「金」「情報」などの他の経営資源も駆使しながら問題に立ち向かっていけるのです。
1人よりも2人、2人よりも3人が集まって知恵を出し合えば、突破口が見えてきやすいはずです。
同じような考え方の人ばかりではなく、なるべく考え方の違う人を集めるということが重要です。
ヘーゲルの弁証法では、
テーゼ(命題)に対してアンチテーゼ(対立命題)がある
そこから、ジンテーゼ(矛盾の解決)が生まれる
そして、アウフベーヘン(昇華)へとつながる
と説かれています。
「SECIモデル」で知られる野中郁次郎一橋大学名誉教授の「知識創造」の考え方においても、
「異質なものの組み合わせ、あるいは多様性こそが知識創造につながる」
とされています。
場の雰囲気も経営資源
異質な人を集めるとき、全員が高学歴・有名大学卒業などのエースである必要はありません。
それよりもむしろ「場(空間や雰囲気)」が大切になります。
率直に意見を出し合い、議論を闘わせることには、個々のメンバー自身では形にできていないアイデアや考え方を具体化するパワーがあるのです。つまり、そのような雰囲気も含めた「場(空間や雰囲気)」も経営資源のひとつなのです。
周りの人々の知識や経験なども含めた経営資源を総動員して、良い結論を出していきましょう。
そのために一人ひとりが重視して力を付けておくべきなのが、「ネットワークを駆使して人を集める力」「文殊の知恵を導き出す力」「問題に気付く力」「問題をつくり出す力」なのです。
異質化で組織に化学変化を起こさせる
「0」をいくつ足しても「0」です。
過去の成功体験に囚われ、「0」をいくつか足して「1」にしようとする経営が残存しています。
市場が拡大していた高度成長期には、「0」が突然変異して「1」になることもあったかもしれません。
しかし、日本はこれからさらに少子高齢化が進み市場は縮小します。
どんな企業も競合との激しい生き残りを賭けた総力戦となります。
新たな市場を求めて海外へ進出するといった手段も必要となるでしょう。
技術やノウハウを応用して新規事業を立ち上げるべきかもしれません。
過去の成功体験ではなく、未来志向で戦略的に動く必要があるのです。
多様化のための人材活用
今までと同じ価値観で行動する人材ではなく、今までにない価値観や行動力を持つ人材が必要とされます。低成長、国際化、多角化、価値観の多様化といったキーワードに対応できる人材の採用や、育成が不可欠です。
リーダーは、常に時代の変化への備えとして、積極的に異質な人材を取り入れ、育成する風土を育んでいかなければなりません。今まで会社の中になかった能力を持っている人や、異質な人材を社内に積極的に取り入れ、化学反応を起こさせるのです。
異質な人材を加えれば「0+0+1=1」となります。
今まで「0」だった人にも化学反応が起こり「1+1+1=3」となる可能性もあるのです。
そのようにして変化に対応できる組織へと生まれ変わっていくのです。
変化し続ける時代の先を読むことはとても困難です。
しかも、将来にどのような人材が必要となるかの予測も難しいものかもしれません。
しかし、人間には、まだ気付いていないたくさんの能力が眠っており、大きな可能性があるのです。
きっかけがあれば、その眠っていた能力が開花し、組織全体を動かす力となっていくでしょう。
組織を機能させるリーダーの役割と責任のあり方
何か重要な決断を行うとき、企業では関係者が集まって会議を行います。
会議そのものが決断を下すのではなく、あくまでもリーダー個人の役割だと肝に銘じましょう。
会議の3つの役割
「報告の場」としての役割
意見やアイデアを求めることが前提です。
そのため、経緯や背景、現状や周辺環境などの情報を共有しておくことが重要です。
メールなどで事前に資料を配布したりすると効率的でしょう。
「審議の場」としての役割
議題に関わる人たちの意見を広く集め、結論に近づくためのプロセスです。
声の大きい人の意見だけでなく、少数派の意見にも耳を傾けます。
誰でも忌憚なく意見を言える雰囲気づくりが大切です。
「結論を出す場」としての役割
会議で出されたアイデアや意見によって、何となく優勢になる結論もあります。
それが、あくまでも選択肢のひとつであり、結論ではないことを認識することが大切です。
そして、最終的な決断を、リーダーがひとりで下していくのです。
会議とは、リーダーが決断を下すために、広く意見やアイデアを求める場なのです。
慎重、かつ大胆に決断を下す
リーダーが、決断を下す権限と責任を遂行するためには、
常に慎重に、臆病と言えるほどに、メンバーの意見やアイデアに細心の注意を払わなくてはなりません。
常に自問自答する必要があります。
自分が感じていることは間違っていないか
会社の理念に合致しているか
真の顧客視点になっているか
その一方で、決断は大胆に行うことも大切です。
広く意見を求めた上で、到達した結論を信じ、迷うことなく推進しましょう。
リーダーに迷いがあると、誰も付いてきてくれません。
できるだけ広く、たくさんの意見を求め、最後は自分ひとりで決断する。
そして、下した決断に対して責任を持つ。
リーダーは決してその重要な役割から逃げてはいけません。
組織力を高める議論の質の高め方
さまざまな意見を統合し、最適な結論を導き出すために、会議という議論の「場」を持ちます。
わざわざ時間と場所を使って集まって議論をする理由はひとつ。
ひとりで考えて答えを出すよりもより良い結論を導き出せるからです。
組織の文殊の知恵を導き出す
組織の「文殊の知恵」を導き出すためには、
議題に対するそれぞれの意見や言葉を、より厳密に共有し合う必要があります。
議論では皆、自分の頭の中にあるイメージを言葉に置き換えて相手に伝えます。
受け手は、発せられた言葉を再び頭の中でイメージに置き換えて理解しています。
使われる言葉に対する共通認識が高いほど、それぞれの頭の中にあるイメージは近いものになります。とくに、共通言語の乏しい者同士での議論、難しい内容についての議論では、お互いの頭の中にあるイメージを近づけることが大切です。
皆の思考を同じ土俵に上げる
皆の思考を同じ土俵に上げるには、まず「言葉の定義」を明確にします。
その上で「型を決める」ようにしましょう。
弁証法的に「テーゼに対するアンチテーゼを出して議論する」という手法もあります。
問題としている事象の中から対の要素を見つけ、行と列に配置し、その交点で各要素の関係の有無、関連度合いを表示する「マトリックス図」、「QC7つ道具」を用いるのも効果的です。
問題を発見するためには「グラフ」や「管理図」が有効です。
問題の原因を把握したいときには「パレート図」「ヒストグラム」「特性要因図」などが向いています。
これらは、議論の対象となる現象を可視化する型です。
誰にでもすぐに問題点が理解でき、何を考えるべきかを明確化できるのです。
議論が迷走することを避けるために活用していきましょう。
どのような型を用いるかはケースバイケースです。
これらの「型」を効果的に用いて、議論を活性化させ、「文殊の知恵」へとつなげていきましょう。
議論の効率性を高める
議論は大切ですが、その議論を効率的にすることも考えましょう。
貴重な時間をムダにしないためにも、
テーマに対する議題や考えを、言葉だけでなく図や道具を使って表現した資料を配布します。
議論は、それを説明することから始めていきましょう。
参加者全員が同じイメージを共有した上で、お互いの言葉で説明したり、補完したりするうちに、
新しい発想や思考が生まれ、良い問題や良い答えが導き出されていくでしょう。
それこそが議論の最大の意義なのです。