本質を見抜く力を高めて部下の個性を伸ばし成長させる部下指導のコツ
自分の成功体験をそのまま部下に押し付けても人は育ちません。自分の成功は「特殊解」かもしれないと疑うことが大切です。
可能性のある部下を見出す時にも、人間ですから、どうしても「好き・嫌い」の感情が入る可能性があります。感情にとらわれず、可能性のある人材を見出し、そして育てるには「普遍解」や「セオリー」があると思います。それについてこれから述べたいと思います。>
<目次>
自分の成功は特殊解で部下には通じない
自分の成功体験を概念化する
人材の発見・育成は本質を見抜く力が成功のキー
本質を見抜く力の高め方のポイント
自分の成功は特殊解で部下には通じない
「失敗は成功の基」と言う言葉がありますが、それはある意味において本当だと思います。
人は失敗によって反省し、そして成長し、成功を手にすることができるのだと思います。
一方で、可能性のある人材を見出し、育てる上で「成功者が次の成功者を見出し、育てることができる」とも思います。
何故なら成功者に人は集まりますし、話を聞いてくれます。
本屋で売れているビジネス書は、おしなべて成功者の本でしょう。
しかし「成功者」の本を読んだから必ず成功する訳ではありません。
本の内容にも依りますし、読んだ人の能力にも大きく左右されます。
私たちが理解しておかなければならないことは、著者の成功は「普遍解」ではなく、「特殊解」かもしれないということです。
自分の成功を後進に伝え、育てる時にも同様です。
自分の成功は「特殊解」かも知れないと疑うことが大切なのです。
もしかして自分の能力と仕事を取り巻く環境がたまたまマッチしたからかもしれない、或いは自分と上司の人間関係が良く、気が合ったから色々とアドバンテージを受けたからかもしれないのです。
それが解らないまま自分の成功体験を押し付けても人は育ちません。
何故なら、自分の成功した時間も環境も今の部下のそれとは異なる可能性が大いにあるからです。
それでも可能性のある部下を見出し、育てるのが上司の仕事です。
どうしたら良いのかをこれから述べたいと思います。
自分の成功体験を概念化する
例えば、皆さんの多くが経験された大学受験、「A大学合格」というテーマで、後輩にそのコツを伝えるとしましょう。
皆さんはどう伝えますか?どうすれば後輩の受験勉強の参考になると考えますか?
まず「テーマ」を明確化します。
どこの大学でも合格すれば良いのではなく、A大学に合格するとテーマを明確化することです。
次に「過去問と傾向と対策」をします。
入試問題は広範囲から出ますが、A大学の過去問を分析し、どんな型の問題が出るかを調べます。
これを「類型化」と言います。
次に行うのは「典型問題と類似問題のリスト化」です。
つまり次に出題されると予想できる典型的な問題のパターンとそれに似たタイプのリストアップをします。
これを「要素化」と言います。
最後に「実際に問題を解く」つまり「各要素の個別解決」を行います。
この例は「A大学合格」が「テーマ」ですが、仕事においても「X社新規参入」や「Y問題事業部の改革」でもほぼ同じようにアプローチできます。
この様に「テーマの設定」→「類型化」→「要素化」→「各要素の個別解決」の段階を追う仕事のやり方も一つの「概念化」です。
こうすることによって、「個別解」を「普遍解」に変換して後進に伝えることができますし、後進の育成が可能になります。
また「メタファー(隠喩)」を使うことによって伝えたい内容がビジュアル化され、感覚に訴えることもできますから、その技術を習得することも「伝える技術」として必要です。
人材の発見・育成は本質を見抜く力が成功のキー
本質を見抜くことができる人とできない人がいます。
色々な現象に囚われて、あたかもモグラ叩きの様な仕事になっている人は居ませんか?
或いは重箱の隅を突く様なことばかりで中々全体像を把握した仕事ができない人も居る様に思います。
可能性のある人材を見付け、育てる時のキーワードは、
「本質を理解できるか」、
或いは「本質を見抜く力があるか」ではないかと思います。
勿論、指導者にその能力が無ければ、可能性のある人材を見付け、育てることは難しくなります。
従って「リーダーはリーダーにしか育てられない」は至言です。
まず自分の「本質を見抜く力」を向上させる努力が大前提です。
そしてその力は、持って生まれる人も居ますが、鍛えることができます。
「才能・努力する力・継続する力」が「可能性のある人材」の原点です。
「本質を見抜く力」が高い集団であれば、長期的には必ず成果が上がります。
これは真理です。
但し短期的には必ずしも結果が出ないことがありますが、そこは辛抱して長期的に継続することが大事となります。
本質を見抜く力の高め方のポイント
本質を見抜く力を育てる為には、いくつかのポイントがあります。
1つの事象に「なぜなぜ?」を5回繰り返す
これはトヨタの人材育成のキーワードですが、QC7つ道具等を使って実践します。
例えば、コスト削減をしなければならない状況下、「コスト意識を持て!」と言うのと「当事者意識を持て!」と言うのとどちらが本質的かを考えれば分かります。
物事や人に対して「何の為に?」を自ら問う
例としてですが、マズローの五段階欲求説は有名です。
人間の欲求は、生理的→安全→所属と愛→承認→自己実現 と言う階層になっていると言う考え方です。
つまり目的と手段は連鎖しているとも言えます。
この様に「何の為に?」を問い続けると「本質」が見えてきます。
種々の情報に対して「本当にそうか?」を自ら問う
最近のベストセラー“Fact Fulness”(ハンス・ロスリング著/日経BP社)と言う本をお読みになった方も居られると思います。
人間の思い込みによる誤解は枚挙に暇なしです。
データの精度や誤解を招きにくいデータ処理情報に基づく理解が「本質」に近づけます。
自分の反対意見をしっかり知る
ディベート等で議論を深めるやり方も必要でしょう。
客観的な視点を持つ
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」は「本質」の理解とは反対の概念です。
仮説に対して実際に見て判断する
これは、3現主義(現地・現物・現実)そのものです。
これらをまとめると、「考える力」「判断する力」「表現する力」「協働する力」と言うことになります。
「本質を見抜く力」が「可能性のある人材」の基本であり、そして「本質を見抜く力」は上記6つのポイントによって鍛えることができ、それは「考える力」「判断する力」「表現する力」「協働する力」に他ならないと思います。
さらに、「可能性ある人材」を育てる上司がそもそも「本質を見抜く力」を持っていなければ何も始まらないということになります。